禁じられた純情

「ごめんね、会えない」

 画面に表示されたメッセージを見て、一人静かに肩を下ろした。普段から周りの人間にはよく顔に出ると言われるが、今の心情は顔に出ていただろうか。できれば出ていないことを願いたい。稽古前の、昼下がり。

 学生時代の友人である彼女とは、数日前にSNSを通じて再会した。昔は、彼女と特に目立って仲が良かった訳ではない。自分で言うのもなんだが、それなりに交友関係も広かった方だと自負している。もちろん男女問わず。そんな中でも、彼女とは数えるほどしか言葉を交したことがない。

 俳優、という人前に出る仕事を始めてから、こうしてコンタクトを取ってくる人間は実生活において随分と増えた。それこそ名前も知らない人が友人だと名乗って声を掛けてきたり。本来であれば数えるほどしか会話をしたことない女など、記憶から抜け落ちていてもおかしくはないのだが。それでも彼女は別だった。__学生時代、彼女の事が一方的に好きだったからだ。

「高橋くんは今仕事何してるの?」
「へえ〜そっか、俳優さん!すごいね!」
「どんな作品に出たりしたの??今度見てみたい!」

 メッセージ欄に並ぶ彼女からの言葉。今現在彼女に想いがあるわけではないし、学生時代の一方的な片思いだ。思春期真っ盛りだった当時は恥ずかしくて友人にすら打ち明けたことのない感情。それなのに、当時を思わせるざわつきが胸中を支配するのは一体何なのか。残り香だとでも言いたげに燻るそれは、抑えたくとも滾ってしまってたまらない。まずいと分かっていても、どうにも収まらなかった。気付けば送ってしまっていた返事に、自分でも愕然とする。それでも、随分と昔よりもきれいになった彼女の写真を見て、昔よりもたくさん交した言葉たちを見て、ひと目だけ、という衝動が、どうにも抑えられなくて。

「会いたい」

 たった四文字、されど重罪の禁句。そんな言葉を吐いてしまった自分に対する罰は、随分と重かった。

「私ね、去年結婚したの。だからさ、二人ってなると。

 __ごめんね、会えない」